慢性疲労症候群(まんせいひろうしょうこうぐん)は、原因不明の強度の疲労が長期間(一般的に6ヶ月以上)に及び継続する病気である。英語 Chronic Fatigue Syndrome や Myalgic Encephalomyelitis(筋痛性脳脊髄炎)、 Post-viral fatigue syndrome(ウイルス感染後疲労症候群)のアクロニムからCFS、ME、PVFSと呼ばれる。また重篤度が伝わらない・慢性疲労と区別がつきにくいということから、Chronic Fatigue and Immune Dysfunction Syndrome(慢性疲労免疫不全症候群)という呼称を患者団体が提案してもいる。以下CFSと略す。
長期間の疲労感の他に次の症状を合併することがある。
激しい疲労のため、CFS患者は働くことはおろか、通常の日常生活(食事・買い物等)すら困難になることさえある。何とか働ける程度の軽症の患者もいるが、自分で食事を摂取することや寝返りさえうてないほどの重症患者までいる。
通常、CT・MRI・血液検査等も含む全身の検査を受けても他の病気が見つからなく、精神疾患も当たらない場合に初めて疑われる病気である。しかし、詳細に検査をすると神経系、免疫系、内分泌系などに異常が認められる。なお、病苦・周囲の理解のなさ等の苦しさからうつ病・神経症などの精神疾患を合併する例もある。
よく間違われることであるが、疲労が蓄積された慢性疲労とは別のものである。一見するだけでは元気にしか見えない患者もいるが、体内の不快苦痛・不自由さが生活の障害となっている場合も多い。慢性疲労症候群という名称も誤解されやすいものとして、改名を求める声がある。 20代から50代のうちに発症するケースが多く、患者全体のうち女性が6?7割程度を占め、アレルギー疾患を持っている人の方が罹患しやすい。日本では、約20万人(0.2%)がCFSを罹患していると推定されているが、認知度の低さにより、適切な診断を受けていないか、仮面うつ病・神経症等に誤診されている患者が多いと思われる。
CFSは比較的新しい疾病概念であるが、古代医学の巨人ガレン(AD130?201年)の著書の中にもCFSの病態のように思われる記述が残っている。18世紀にも裕福層に多く同様の病態の患者がいた記録が残っており、著名人の中でも、フローレンス・ナイチンゲール、チャールズ・ダーウィン等も同様の病状のようであったようだという記録が残っている。
そして、1930年代から1950年代に世界各国で集団発症例が、60ヶ所以上で報告されており、アメリカ・イギリス・オーストラリア・アイスランド・ドイツなどで集団発症している。当時はCFSという概念がなく、発症した病院名や地域の名をとり、ロイヤルフリー病・アイスランド病などと呼ばれ、異形ポリオ・集団ヒステリーなどではないかと推察されていた。
1930年代後半に、筋痛性脳脊髄炎(Myalgic
Encephalomyelitis)という名で、免疫・神経学的な研究がなされ、WHOによりCFSは、中枢神経系の病気であると、1969年に分類されている。そして、1992、1993年には、"ME(筋痛性脳脊髄炎)"と"CFS(慢性疲労症候群)"
両疾病概念は、WHOの国際疾病分類 ICD-10
G93.3 PVFS(感染症後疲労症候群)にまとめられた。
1984年には、アメリカ・ネバダ州にある人口約2万人のインクラインで、人口の約1%にあたる約200名が強い疲労などを訴え(ネバダ・ミステリー)、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が調査に乗り出し、病名を慢性疲労症候群(Chronic
Fatigue
Syndrome)と命名。1988年には診断基準も作成された。再びこの集団発生する病気に脚光が浴びせられることとなる(ネバダ州の集団発生の理由は、エプスタイン・バーウィルス感染だと考えられている。成年以後に、EBウィルスに感染すると約1割が、CFSを発症するとされている)。集団発生する理由は未知のウィルスが関連しているのではと考えられていたが、現在では否定的であり、感染症・環境汚染等で集団発生したのではと考えられている。(必ずしも集団発生するわけではなく散発で発症する方が多い)。日本でも、1991年、熊本県で肺クラミジアに86名が感染し、その後、12名がCFSを発症したことが報告されている。
日本ではあまり関心を持たれてはいなかったが、1991年に、厚生省のCFS調査研究班が発足。1993年には、日本における診断基準を満たす患者が、474例報告された。以後、阪大を中心に、CFSの研究・診察が行われた。2005年には、大阪市立大学医学部に疲労クリニカルセンターが設立された。一般的な疲労を含み、CFSの研究・診察を行っている。
諸外国でも研究が進められ、生理学的な異常が多く報告されるようになり、2001年には、イギリスにおいては、保健省の首席医務官が、すべての医師はCFSを深刻な病気とみなし治療するように指導し、アメリカ・ヨーロッパ諸国・韓国等でも同様の動きがあるが、医師の間では、CFSの存在・身体的疾患か精神疾患かという議論が絶えない。しかし、徐々にではあるが世界の医療従事者の中でも認知が深まりつつある。
2006年には、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によるC3(CFS
Computational Challenge)と題された、ゲノム学者・分子生物学者・数学者・エンジニア等で行った大々的な研究結果を報告し、CFSが存在すること、精神疾患であることを否定し身体的な病気であると宣言をし、400万ドルをかけてアメリカ国内で、"Spark"と題された認知キャンペーンを開始し、アメリカ疾病予防管理センター長も、CFSを深刻な病として扱うことを訴えた。病名の変更もなされる予定である。
症状
診断基準
但し、以上の基準は初期研究段階において、研究対象にする患者を厳格にふるい分けるために作られたものであり、小クライテリアが多く、また、精神疾患を持っていればCFSから除外という問題のある診断基準であるので、実際の診断にはもっと基準を緩めてもいいのではないかという意見が、一線の研究者からも出ている。
また、CFS患者特定の検査は、近年諸処現れているものの血液などの化学検査でそれ一つで確定できるようなものはなく、現在では、症状を示す他の疾患である可能性を除外する除外診断により行われており、客観的にCFSを鑑別できるバイオマーカーの必要性が叫ばれていたが、大阪大学・大阪市立大学共同チームにより、血液 1,2mlに近赤外線をあて、約95%の確率で鑑別できる近赤外線分光法が最近開発された(しかし、CFS患者特有のスペクトルを起こす血液中の物質はまだ特定できておらず、研究プロジェクトを立ち上げる予定)。そして、血液中のRNaseの分子量により鑑別する検査なども開発されている。
また、アメリカCDCでの診断基準は以下の通りで、小クライテリアが少なく、より多くの患者がCFSと診断されることになる。
疲労・侮怠の程度は、PS(パフォーマンス・ステイタス)により判断される。CFS患者は、PS値が3-9の間である。